感想置き場

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BUSTAFELLOWS(バスタフェロウズ) 感想

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© NIPPON CULTURAL BROADCASTING EXTEND INC.
 舞台は急成長したが故に歪みを抱える街ニューシーグ(NYの近くにある架空の州)。不法移民や断絶と重い話が主な縦筋で、それらに対するスタンスに関して問題提起するストーリーでした。私自身、不法移民に関して詳しいわけではなく、また持つ側と持たざる側に関するスタンスも決めかねているため、興味深くストーリーを読みました。
 ゲーム全体としては、絵の綺麗さ、システム面の便利さは勿論、台詞回しや演出が素晴らしかった。セリフは口に出すことが前提で書かれているのか不自然な言い回しもないし、地の文も少なめで驚きました。乙女ゲーム自体さほどプレイしないので、これがデフォルトなのかもしれない。感覚としてはドラマCDとノベルゲーのいいところを合わせた感じ。演出として全てテキストボックスに書き起こさずに、あえてBGMと混ぜたりキャラ同士のセリフを重ねたり、「ゲーム」であることを最大限に活かしていてよかった。作品としての完成度が高くて値段以上の価値があると感じました。
 
以下、ネタバレ有の1周目感想となります。プレイ済みの方のみどうぞ。
キャラクターはプレイ順で書いてます。 

 

[キャラクター] 

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リンボ
 前置きとして、ストーリー・キャラクター、どちらもとても丁寧に造られていて、変な目で見たくないと思わされるほど素晴らしかったです。ただ、制作陣は挿絵や展開を見るとわかると思うんですが、絶対キャラクターを曇らせるの好きだと思う。端麗な顔が歪むのが好きだと思う。なので言わせてほしい。悪趣味な文を見たくない方は次の太文字まで飛ばしてください。
 
やったーーーー‼︎呪いエンドだーーーー‼
BADEND2は特に主人公の歌鼻歌が残って暗転するのが良かったです。またリンボは目が印象的なので、楽しそうな表情も絶望的な表情も映えるのですが、銃を持つ表情が最高だった。笑顔になれる。後日談であるルートBから分かるように、普段はスマートで有能な弁護士として振る舞う彼の心が折られる様が凄い素敵。戻って彼の元気な顔を見ても、死んだ目や便りなさげな目がフラッシュバックしてまた良かったです。このBADEND達は相対するナヴィードがリンボを絶望させたいと思ったからこその展開なのですが、複数ルートねっとり書くのは製作陣の趣味趣向なのではないでしょうか?主人公が死にたくないと泣きながら死んでいったBADEND2も、時間を戻って助けてあげると言いながら撃たれて死んでしまったBADEND1も良かった。以上のようにBADENDに好みを刺激されてしまい、曇らせという新しい扉が開いてしまいました。なんてことをしてくれたんだ。
 
 本当の所はBADENDが複数あるのは、救えない無力さ・絶望感を味わってほしかったのかなと思います。上記の感想が出てきたのは受け取り手の認知が歪んでるだけです。良くない。真面目な話をすると、例のシーンの選択肢が「リンボのために命をかける」「絶対に生きる」の2択で後者を選ぶ必要がある必要があり初めは驚愕しました。よくあるパターンとして相手キャラに命をかけられるほど好きだと表現する必要があるので。ただその後何度もお互いが生きてなきゃいけないんだと言っていたので納得し、良い選択肢だなと思いました。
 悪の定義も良かったと思います。自分の正義は自分で決める、と言うスタンスは先日プレイした他作品に出ていた概念で学習済みだったのでしっくりきました。欲を言えばもっとこの概念を前に押し出すと、あざやかな悪に染まれというキャッチコピーが強調された気がします。もしくはリンボを最後にプレイするか。*1
  キャラクター造形に関しては、第一印象が「唯我独尊系か?」でしたが、自分の中の正しさに従い悪いこともする一方、弟・お坊ちゃん成分もある上品な「フィクサー」で絶妙なバランスで造られてるなと思いました。またこの問題に向き合うのが裕福な家庭で育ってきたリンボなのも面白いなと思いました。だからこそ「考え続けるしかない」という結論に落ち着いたんだろうなと思います。私自身過去こういった問題について向き合った時に、どうしても問題に巻き込まれている人間にはなれないし、本当の意味では理解できないという結論に落ち着いたのでわかります。すごいのは彼らは実際に動いていること。この辺傍観者でいたくない、という話に繋がりますね。またきっかけを与える、という意味ではヘルベチカと同じ。でも、だからこそもう一歩先の意見を出してくれないかなと勝手に期待してしまいました。ある意味リアルな着地の仕方でした。
 

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 スケアクロウのルートは縦軸に父親との再会があるからか、Bルートのモズが母親のように二人を叱ったり、兄さん方がヤジ飛ばしたりして、疑似家族感が強めに描写されていて良いなと思いました。作中で「家族みたいなもの」とキャラが互いに言うので、プレイヤーとして誰とも付き合わずにこのまま疑似家族でいたい、とリンボルートに入る前から思っていました。その思いを叶えてくれるルートだったように思います。末っ子同士がくっついた感じがあって可愛いし等身大感が強くてよかったです。一番しっくりくる組み合わせでした。
 あと水中のキスも好きだけど、なんといっても首絞めがよかった。意識して書かれているのか、みんな体格差や手の大きさがあるのでいいですね。そしてテウタの声優さんの演技はリンボルートでの嘔吐も最高だけど、首締められてるのもよかった。水中の方は行為自体ではなく、助けようとシュウと主人公が二人で模索してるシーンが仲間感を強く感じられてよかったです。
 

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ヘルベチカ

 過去がよくわからない、父親という点でスケアクロウと共通点があるからか、彼との関わりが多かったのが印象的でした。彼に関しては「水槽」から出てきた人間としての話だったのでなんと言及していいものか。(思えばプール描写が多いのは水槽の話してたからか。またスケアクロウ側の水槽と水責めの話はこちらと合わせてるのか。)「あなたはあなただ」と肯定する話でそこ点もスケアクロウと同じでした。どちらも同じ先生が治療にあたっているので「なりたい自分」にフォーカスを当てていたのもあります。ただ過去を取り戻して、自分の手でどちらかを選べるという点では違いましたね。きっかけがあれば自らで這い上がることを選ぶこともできるんだ、という「汚い水槽」側から見た問題への1つの答えの提示ルートなのかな。
 声優さんに関しては薬を抜く治療中の演技が凄かったです。
 

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モズ

 キャラ性や挟まる独白、テーマも相まって静かで美しいシナリオだった。ペーパーテストの結果が一番自身に近かったこともあり、大変共感できるシナリオでした。
 人と歩くペースの違うモズについて語るなら学校の話、というのはしっくりきました。またティーンの気持ちの描写がそのまま過去の自分自身に当てはまってしまって苦笑してしまった。学校という閉鎖空間とティーンの鬱屈を描くのがうますぎた。そして若さゆえの視野の狭さを肯定してくれる言葉をアイビーにあげられる二人は良い大人だなと思いました。当時の自分を思い出したとしても欲しい言葉を差し出すのは難しいことだと思います。そして時間を超えてあの時の自分が救われた気がする、といったモズのセリフが印象的でした。時間を超えて救われることはあるし、きっとこの作品によって慰められる人はいると思います。他にも死に関する気持ちの描写も誠実で良かったです。なぜ死者の代弁をするのかわかった、と言うのも良かったな……。死者の代弁する、つまり死者に対しての生者の行為(葬式など)は結局残された人間が救われたいから行うことだと思うので。死にしっかり向き合うキャラがいるのは作品としても重みが増して良かったです。
 好感度が上がる選択肢に「わからない」が多いのは、なにかと理論立てて考える彼らしいなと思いました。死も恋愛も説明できないものですから。
 

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シュウ

 キャラやストーリーの要素が全て好みに当てはまったとき、人は言葉を失うんだなと。冷静に見るのが難しかった。自身の好みを自覚させられて一周回って死にたくさえなった。もう何も言えない。基本的にノベルゲームやる感覚でやってたんですが、このルートだけ乙女ゲームをやるときの回路を回してしまった。もうだめ。終わり。すごく良かった。シュウルートに関しては冷静に見れるようになった頃に追記するかもしれません。
 1つだけ言うなら、第一印象が「よくある冷たい傭兵」だったのですが、プレイしていくうちにスケアクロウ達をしっかり仲間や家族っぽく認識しているのが伝わってきて初めは戸惑ったのを覚えています。このゲーム、キャラがテンプレートそのままじゃないのが良いなと思います。要素についても互いに似たような、でも同じではない物を持っているので其々書き出したら面白そうだなと思いました。
 
 
[総括]
 取り扱われていたテーマは擬似家族、フィクサー、断絶、罪、死、自分とはあたりかなと思います。ただ断絶・罪あたりが問題提起に終わったのは、個人的には問題に対する考えを聞きたかったのでちょっと肩透かしでした。いや、「傍観者でいたくない」「わかりたい」「考え続けていたい」「きっかけがあれば道は自分で選べる」という答えは出してくれてるんですよ。ただそこまでは自分でたどり着けるからこそ、更なる答えがあって欲しい、という身勝手な気持ちがありました。無難な着地の仕方だな…みたいな。*2その辺も相まって、攻撃力よりも防御力が高い作品だなと思いました。ただ最後の終わり方はやりたいことをやってる感じが出ていて良かったなと思います。ある意味尖っていた。フィクサーと言われて想像するフィクサーが登場するのも良かったです。主人公達フィクサーと対比できる存在。
 最後のルートに関しては登場人物がほとんど過去に罪を持っているので、テウタにガッツリ罪があってほしかったけど「傍観者になりうる立場」ということで意図的に罪を持っていないのだろうなと思いました。傍観者とそうでない者の狭間にいる者を主人公として出すならこの終わりになるのかなと。被害者(ルカ)ではなく、加害者(アダム※ルカに対する加害者ではない)でもなく、守られていた傍観者。知らないという罪はあったのかもしれませんが。
 あと最後に主人公に言及するのであれば、主人公の能力にも深く触れて欲しかったとも思います。能力の使用方法が複数ルートで同じなのも少し残念でした。制限がきついので仕方のないことなのかもしれませんが、無理して遠い過去まで飛ぶような使い方もありだったのでは?なんて、生じっかリアルなせいで、イラストから勝手にこちらが期待してしまう派手な活躍がない落差を感じました。*3続編が決まってるようなので、その辺は次に期待しておこうと思います。
 色々言いましたが、本作はプレイして良かったと心から言える作品でした。乙女ゲームに関して苦い記憶がありましたが、それを塗り替えてくれたように思います。こんなストーリと演出を重視する作品があるならまたやりたい。
 
追記
 プレイしてから時間が経ちましたが画集を購入しました。購入するにあたり、改めて自分の感想を読みましたが、だいぶ作品にハマってることがわかりますね。バチバチにキマってる。この長い感想を読んでいただいた方に感謝。
 画集の感想ですが、購入して一番良かったなと思った点はスチルの大きさや扱い方から公式が推しているシーンがどこかわかるところ。リンボとシュウの一番大きなスチルの選び方が対照的すぎて個人的にツボでした。そして共通部分のスチルや攻略対照以外の登場キャラクターたちの立ち絵やスチルも大きくしっかり乗せているところが作品を大切にしているのが感じられてよかったです。
 本編の立ち絵やスチルは勿論、作中の小物や発売時の特典用イラストなども収載されているので、気になっている方は是非。シナリオブックの方は公式から入手するのが難しいようなので次の機会を待ちたいと思います。

*1:追記:2周目の感想ですが、最終章でテウタがリンボがイーディに言った言葉を使う場面で彼女の正義でもってアダムを助けようとしたんだなと改めて思いました。彼女自身が「あざやかな悪」に染まっているのを表すのだとストンと納得できました。

*2:追記:思い返すとテーマ全てに関してしっかり答えを出して丁寧に描写されているのですごいなと思いました。プレイ後に感じた不完全燃焼感は私が欲しがりだったせいだと思う。それらに五人のルートで答えを出した上で、full circleとして話を纏めて、最後の話へ繋いでいくという構成が美しいなと改めて感嘆しました。

*3:追記:改めて考えると、ファンタジーとリアルを上手く混ぜた作品だったように思います。本来ワクチンとかも使用用途違うはずなのにプレイ時は流されて違和感感じなかったし。幻想を見せるのが上手い。ただその地に足ついた部分と、プレイヤーの想像する派手さ、ファンタジーさが最後の方で噛み合わなかった所で不完全燃焼を感じたのかなと。そういった細かい部分以外はリアル志向な作品なのだと思ってみると初めから終わりまで満足できる良い作品でした。